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 陛下、どうしたらいいでしょう
 幾ら瓦礫を掻き分けても
 陛下の右腕が見付からないんです
 俺はどうしたらいいんでしょう



 陛下は俺を弟と呼んでくれたけど、
 本当は一滴だって血の繋がりがないんです
 確かに母は陛下の父上の妃だったけど、
 俺を身籠もったのは彼が亡くなった後なんです

 陛下だってわかってたでしょう
 俺の髪と目がこんなに真っ赤な色なのは
 俺の実の父が洋人だったからなんです
 陛下の先の帝を弑し奉った男こそが
 母を略奪し彼女に俺を産ませた張本人なんです

 俺は陛下の弟なんかじゃないんです
 俺は陛下の仇の息子に当たるんです
 だから俺に天命は下っていないんです
 今この中原で天命を頂くのは陛下唯お一人なんです

 俺は陛下に代われません
 玉座に就くことはできません
 宝冠を戴くことはできません
 俺は陛下の弟なんかじゃないんです


 陛下、ねえ陛下
 俺が陛下の代わりにできるのは
 陛下に代わり戦場を駆け回り
 御身に代わり血を流すことだけなんです 

 だから陛下、代わって下さい
 お願いだから代わらせて下さい
 首をもぎ取られるのは俺で構わないんです
 身体を吹き飛ばされるのは俺でいいんです

 こんな焦げた肉と砕けた骨の欠片に
 陛下がなってはいけないんです


 陛下、ごめんなさい陛下
 精一杯掻き集めたんですが
 どうしても右腕が見つからないんです
 幾ら瓦礫を掻き分けても見付からないんです

 仕方ないから俺ので我慢してくれませんか
 どうかお願いです代わって下さい
 陛下が一言仰って下さったら
 俺は喜んでこの首を落としたというのに

 俺は皇帝になんてなれません
 俺は陛下の仇なんです
 天に一番憎まれるべき人間なんです
 天命を頂くのは陛下しかいないんです



 陛下、お願いです陛下
 俺は陛下の代わりに死ねるけれど
 陛下の代わりには生きられません

 俺の右腕を使って下さって構いません
 俺の首を使って下さって構いません
 俺の身体を使って下さって構いません
 俺の命を使って下さって構いません

 だからどうか、お願いです
 俺を代わりに死なせて下さい


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