紅の
子供の頃から、
罵られる言葉は決まっていた。
――『洋鬼子』
俺の紅毛に由来するものだ。
俺の髪は紅く、目もぞっとするほど緋に近い色をしていた。
この中原の地で、しかも洋人の多く棲む沿海部ならともかく
黄土に塗れた内陸の地で、この色はひどく異彩を放った。
母の髪は黒く、虚ろなその目も光を宿さない漆黒だった。
父の顔は生まれたときから知らず、語られることもなかった。
ただ風の頼りに、当時母には既に夫がいたにも関わらず、
俺の父によって殺され母は略奪されたらしいと知った。
母が何を思って俺を産んだのか、改めて訊いたことはない。
訊いて答える女ではなかったし、知るのがずっと怖かった。
けれど本当の理由は、訊くまでもない自明のことだからだ。
母は父を憎んでいて、それは紛うことない事実だった。
そして俺の面影は、恐らく見たことのない父に似ている。
洋人の父に似た俺は、洋鬼子と呼ばれ罵られ侮蔑される。
だから母はきっと、それを望んでいたのだろうと思う。
俺は父に代わり母に憎まれる為、この世界に生まれた。
俺を産み俺を憎むことだけが、母にできる唯一の復讐で、
その為だけに俺はきっと、殺されることなく生まれてきた。
――まさに俺は、母にとっての『洋鬼子』だったのだ。
今は遠く離れた、『洋人の亡霊』そのものだったのだ。
ああ、母よ。
あなたは俺を産み俺を憎みそれで何か救われたのだろうか。
あなたの亡き後も俺はこうして罵られながら生きている。
鴉片と酒に溺れ、正気を失いごみ溜めの中で死んだ母よ。
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