26 照れ | モクジ | 28 微笑み


紅の

 子供の頃から、
 罵られる言葉は決まっていた。
 ――『洋鬼子』

 俺の紅毛に由来するものだ。



 俺の髪は紅く、目もぞっとするほど緋に近い色をしていた。
 この中原の地で、しかも洋人の多く棲む沿海部ならともかく
 黄土に塗れた内陸の地で、この色はひどく異彩を放った。

 母の髪は黒く、虚ろなその目も光を宿さない漆黒だった。
 父の顔は生まれたときから知らず、語られることもなかった。
 ただ風の頼りに、当時母には既に夫がいたにも関わらず、
 俺の父によって殺され母は略奪されたらしいと知った。


 母が何を思って俺を産んだのか、改めて訊いたことはない。
 訊いて答える女ではなかったし、知るのがずっと怖かった。
 けれど本当の理由は、訊くまでもない自明のことだからだ。

 母は父を憎んでいて、それは紛うことない事実だった。
 そして俺の面影は、恐らく見たことのない父に似ている。
 洋人の父に似た俺は、洋鬼子と呼ばれ罵られ侮蔑される。
 だから母はきっと、それを望んでいたのだろうと思う。

 俺は父に代わり母に憎まれる為、この世界に生まれた。
 俺を産み俺を憎むことだけが、母にできる唯一の復讐で、
 その為だけに俺はきっと、殺されることなく生まれてきた。

 ――まさに俺は、母にとっての『洋鬼子』だったのだ。
 今は遠く離れた、『洋人の亡霊』そのものだったのだ。



 ああ、母よ。
 あなたは俺を産み俺を憎みそれで何か救われたのだろうか。
 あなたの亡き後も俺はこうして罵られながら生きている。


 鴉片と酒に溺れ、正気を失いごみ溜めの中で死んだ母よ。



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