免罪符
どんなことをやってたとしても、
彼女を怖いと思ったことはなかったのに、
今は、彼女の全てが怖い。
彼女と一緒なら、何だってできた。
崩れ始めた石橋を駆け抜けるような真似ができた。
どんなひどいことでも、彼女の為なら平気だった。
彼女が傍にいれば、それだけで自分の全部を許せた。
究極の免罪符、正義の具現、渾沌の女神だった。
こんな危なっかしい、小さな女の子を盾に、
俺はあらゆる罪悪から逃れてきた。
彼女の名前を大義に代えて、
俺はきっととんでもない無茶ばかり重ねてきた。
彼女がいれば、世界を壊すのだって平気だった。
なのに今は、彼女の全てが怖い。
彼女の傍にいるだけで、気が触れそうになるほど怖い。
彼女の手を握っていても、震えが止まらないほど怖い。
彼女の負った深い傷に、目を向けられないほどに怖い。
彼女を覆う、全てが怖い。
彼女を失うかもしれないということが、
世界を失うよりも怖い。
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