06 痛み | モクジ | 08 意地


免罪符

 どんなことをやってたとしても、
 彼女を怖いと思ったことはなかったのに、

 今は、彼女の全てが怖い。


 彼女と一緒なら、何だってできた。
 崩れ始めた石橋を駆け抜けるような真似ができた。
 どんなひどいことでも、彼女の為なら平気だった。
 彼女が傍にいれば、それだけで自分の全部を許せた。

 究極の免罪符、正義の具現、渾沌の女神だった。


 こんな危なっかしい、小さな女の子を盾に、
 俺はあらゆる罪悪から逃れてきた。
 彼女の名前を大義に代えて、
 俺はきっととんでもない無茶ばかり重ねてきた。

 彼女がいれば、世界を壊すのだって平気だった。


 なのに今は、彼女の全てが怖い。
 彼女の傍にいるだけで、気が触れそうになるほど怖い。
 彼女の手を握っていても、震えが止まらないほど怖い。
 彼女の負った深い傷に、目を向けられないほどに怖い。
 彼女を覆う、全てが怖い。


 彼女を失うかもしれないということが、
 世界を失うよりも怖い。



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