09 号泣 | モクジ | 11 苦い


主ある花

 新しい上着が欲しいの
 お山の方にお使いに行くと雪が積もっててうんと寒くて、
 みんなほこほこの毛皮とか着てるんだけど、
 わたしだけ夏と同じ薄い着物だから

 でもやっぱりいらなかった
 もう一枚重ねたら、ちょっとあったかかったから


 お山の木の花が欲しいの
 冬のお祭りは神様のお誕生日をお祝いするもので、
 みんなめいっぱい服に飾りをつけたりするけど、
 わたしだけ何も持ってないから

 でもやっぱりいらなかった
 いっぱい片付け残っちゃってて、広場に行けなかったから


 友達が欲しいの
 村の子達はいつも仲良く走り回ってて、
 笑ったり歌ったり踊ったりしてて凄く楽しそうなんだけど、
 穢れてるわたしには誰も近寄ってきてくれないから

 でもやっぱりいらなかった
 わたしシロの奴隷で、遊んだりする時間もらえなかったから


 電気のミキサーが欲しいの
 毎朝家のみんなのバター茶を作るのはちょっと大変で、
 サンボおじさんが持ってる新しいミキサー見せてもらったとき、
 すごく便利そうだったから

 でもやっぱりいらなかった
 攪拌器で作ったバター茶の方が、ちょっとおいしい気がしたから


 草原の花の紅が欲しいの
 同じ年頃のみんなはそろそろおめかしはじめてて、
 お姉さん達みたいにお化粧とかしたらすごく綺麗だけど、
 わたし一人汚くてちょっと悲しかったから

 でもやっぱりいらなかった
 どんな風に飾っても、わたしはわたしだったから


 昼間も沈まない満月が欲しいの
 村の守り神のニジガロはとても優しくて、
 わたし誰よりもニジガロのこと大好きだけど、
 ニジガロとは満月のときしか逢えないから

 でもやっぱりいらなかった
 なかなか逢えなくなってもわたしニジガロのこと大好きで、
 逢ったときの嬉しさは全然減らなかったから



 ニジガロが欲しいの
 優しくて賢くて強くて誇り高い真っ白な天上の神様で、
 わたしこんなに小さくて穢れてて醜くて何もできないけど、
 村の誰よりもニジガロのこと大好きな自信あるから

 でもやっぱりいらない
 ニジガロがいなくても、わたしにはエバがいるもの



 ――うそ。

 ニジガロが欲しいの
 大好きなニジガロが欲しいの
 他のものは何もかも別のもので代えられるけど
 ニジガロだけは絶対に代わりなんかいないの

 ニジガロが欲しいの
 どうしても欲しいの
 エバさえもニジガロとは代えられないの
 ニジガロが欲しいの
 ニジガロが欲しいの


 もうどこにもいなくても
 ニジガロ以外はいらないの



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