モクジ

あとがき





あとがき

 9・11同時多発テロから、もうじき3年目を迎えようとしています。
 あの瞬間、私は今と同じようにパソコンの前に向かっていました。一機目が突入した瞬間を知らなくて、チャット中だった友人に言われてテレビのスイッチを入れました。だから、多分二機目が突入した瞬間はブラウン管越しに見ています。ビルからばらばら落ちていく人の姿や、倒壊していくツインタワー、悲鳴を上げながら血塗れで逃げていく人々の様子をリアルタイムで見ていたことも、未だに不思議なくらいよく覚えています。
 当時から読んでやって下さっていた読者様はもしかしたら覚えておいでかもしれませんが、あの直後からずっと私は連載を休止していました。テロから一年半ほど経った頃から、裏の方ではこっそりと休載前後に書いた部分を上げたりしていましたが、物語の流れが決定的になる第十夜以降は、結局完結直前までほとんど誰にも見せないまましまい込んでいました。
 完結しないかもしれない、と何度も思いました。自分で動かしているはずの登場人物の行動が許せなくて、続きが書けなくなることが何度もありました。何で自分はこんな小説書いてるんだろう、何でこんなに当たり前の顔してこいつらはテロをやってるんだろう、もう全部投げ捨ててしまおうか、とか思ったことも実は結構ありました。もしかしたら、完結することを誰よりも疑ってたのは他ならぬ作者である私自身じゃないかとすら思います。

 と言う訳で、休載中にも関わらずお付き合い下さった読者さんの存在は、非常にありがたかったです。ちっとも更新できないし、書いているのか書いていないのかもわからないような状態の私を見捨てないでメールで励まして下さったり、再読したと連絡して下さったり、様々な問題について真剣に討議して下さったり……本当に身に余るありがたい読者さんに恵まれて、どこかから銃弾が飛んできても文句を言えないほど、自分の幸せを噛み締めています。
 また、周囲の友人に恵まれたことも大きかったです。物凄く上手い物書きさんに囲まれて、しょっちゅう実力不足を突き付けられて凹みながらも刺激を受けて、何とか書き続けることができたのだと思います。

 テロ以来、自分なりに悩んで何とか結論を出したくて、色んな本や論文を読んだりテレビを見たりネットをうろついてみたりしたのですが、わかったことと言えば、問題はそんなに単純じゃないということだけでした。だから未だに自分のスタンスすらはっきりさせることが出来ないし、これが自分の意見だ、と明確に打ち出せるものすらありません。
 そんな個人的な悩みがぐちゃぐちゃに詰まった小説なので、もしかしたらラストに納得行かなかった方もおられるんじゃないかと思います。主張できるような主張を持たない以上、読み終えても「だから何?」と思ってしまわれた方もおられると思います。ごめんなさい、今の私にはこれが限界でした。
 それでも、これを書き上げてよかったと今は思います。正直言って完結したという実感は未だに湧いてこないですし、これからもまだまだこの小説の人物達が生きている世界は書き続けていくつもりです。その意味ではこの完結はあくまで一区切りに過ぎなくて、それこそ『アンティアーロ・アンティラーゼ』の状態なのだと思います。もしもよろしかったら、これからも、のんびり相手をしてやって下さると幸いです。

 ともあれ、これだけ長い小説を最後まで読んでやって下さって、本当にありがとうございました。


2004年8月8日 人に向けて原爆が落とされた最後の日から、59年目を目前にして。
かとりせんこ。拝



あとがき代わりに20の質問にも答えてみました




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